Chanty 11th Anniversary Oneman「Chantyの世界へようこそ」 2024年9月16日 渋谷WWW ライブレポート!
未来の話ができること。
未来を思い描けること。
それが、いかに尊くて素晴らしいことか。
昨年10周年という大きな節目を迎えた後も、『突き刺す音楽』・『愛哀想奏』の2本のワンマンツアーで全国各地を巡り、シングル『レインドット』をリリースし、横浜1000CLUBでフリーライヴを開催したり、イベントツアー『こてんぱん』で強者揃いの対バン達と真っ向勝負を繰り広げたり、各地で路上ライヴを行っては配信したりと、とにかく精力的な活動を展開したChanty。
「11年目は“10年+1年目”の新人バンドの気持ちで。」と話していた彼らは、バンドが理想とする“当たり前じゃない当たり前”を体現し続けるため、真摯に懸命に自らの音楽と向き合い走り続けた。
そして迎えた2024年9月16日、Chanty11周年の記念日。
9月はバンドの周年に加えてshota(Dr)と白(Gt)の生誕祭もあり、盛りだくさんのお祝い月間。今年はshotaの生誕祭と11周年ワンマンを2daysで行う初の試みとなったが、前日も素晴らしいライヴを見せてくれただけに期待は一層募る。
会場の渋谷WWWは、元映画館だった建物の造りを活かしたひな壇状の客席と高い天井が特徴的なライヴハウス。ステージから見た景色はきっと壮観だろうし、Chantyの音楽が気持ちよく響いて映えることだろう。
祝福に集った多くのファンが続々と入場し、あっという間にフロアの最上段まで埋め尽くしていった。
ほぼ定刻、場内が暗転してギターの音色が響きだす。
ステージを覆う幕が開き、ギターを抱えてスポットに照らされた芥(Vo)が「Chantyの世界へようこそ。」と物語の始まりを告げると光が満ち溢れる。
「さぁ、WWWいけますでしょうか?聞かせてくれるかい?見せてくれるかい?」
掲げられた無数の手と歓声に向けてshotaがカウントを刻み、満開の花びらを舞い上がらせるような白のギターが鮮やかに彩る『散花』でライヴはスタートした。
「生きてたどり着いたよ、WWW。」会場全体を見渡し早くも笑顔が零れる芥、感慨深げにフロアを眺める野中(Ba)。メンバーもオーディエンスも、この日を共に迎えられた喜びを分かち合っているのが伝わってくる。
「11周年、デカい声を期待してます。かかってこいよ!」
勢いを加速させるようになだれこんだ『【3.0.17】』と、「今の曲の3年とんで17日前、この曲が生まれました。大切な曲です。」とタイトルコールされた『終わりの始まり』。
Chantyの始まりの曲である『終わりの始まり』と、そこから3年と17日歩んだ先で決意新たに願いを込めて誕生した『【3.0.17】』。周年にこの2曲が続けて演奏されたことの意味と、そこに託した想いを想像して胸が熱くなる。
“置いていかないと 誓ったこの目に嘘偽りはない”
“世界中へ響け このメロディ”“さあここからすべてが始まるんだ”
いつも以上に真っ直ぐ視線を向けて届けられたフレーズに、今のChantyの覚悟が滲む。
「周年だろうがなんだろうが、あなたの1日奪いまして、ぶつけ合って、作っていきたいと思いますが、準備はよろしいでしょうか?・・・期待してます。」
耳を劈く大音量のコールアンドレスポンスの応酬で、場内の熱が急上昇した『無限ループ』。カラフルな照明の下、ジャンプ・タオル回し・声出しと休む間もなくパワーを発揮し続けるオーディエンスの姿は、このテンションで2時間持つのかと心配になってしまうほど。
気合いが漲りつつも気負った様子は感じさせないメンバーの表情と、初っ端からフルスロットルで応えるフロアの様子に、“間違いなく最高の1日になるに違いない”と確信して嬉しくなった。
絶え間ないメンバーコールが響く中、芥がギターをつま弾きながら優しく話し出す。
「11th Anniversary『Chantyの世界へようこそ』、よくぞ御来場いただきました。誠にありがとうございます。雨は止んだかな?止んでないのだったら、僕らが止ませてみせましょう。僕らが共に歩みましょう。どんなに間違っても、どんなに間違っても、戻ってくる場所。そして、あなたの雨を凌ぐ傘になりましょう。そんな気持ちで、今日はここに来ました。バンドが始まって、4015日。今日も、散らない花を咲かせに来ました。あの時、思い悩んでいた誰かの気持ちが、少しでも前にいきますように。この曲を贈ります。」
そう言って届けられた『ダイアリー』。
「“消えたい今日も消えたい無かったことに”・・・させねえから、その声を聞かせてくれ!」と叫ぶと、大きな声が返されていく。
音の洪水の中、視界はSOSを連想させる真っ赤なライトに染め上げられた。
「消えたい消えたい消えたい消えたい。そんなことを毎日思っていた、そんなことを昼間に思っていた、そうしたら夜になった。今はこんな時間、今は何時だ?よくわからないけどさぁ!・・・こうやって、夜は更けていくんだ。“いちにっさんっ”!」
畳みかけられた言葉とカウントによって『今夜未明』の闇の中へと突き落とされると、焦燥感と緊張感がどっと押し寄せ、あっという間に空間を呑み込んでしまう。
耳元で囁くように再び聴こえた“いちにっさんっ”のカウント、リズム隊のタイトな演奏、悲鳴のようなギターソロ、逃げることのできない闇が次から次へと覆いかぶさってくる。
「“キラキラ輝くうっとおしい光が、うっとおしい光が、うっとおしい光が”・・・目覚めたらまた襲ってくるんだ。ずっと寝てたいな、おやすみなさい。」
心を追い立てる変拍子の轟音がスッと途絶え、真っ暗な世界にポツンと取り残された感覚に襲われる。
「答えもなく、彷徨う僕を、突き刺す光が、マジで鬱陶しい。」
イントロのギターとシンバルの音色が水面の波紋の如く広がった『monorium』では、青と白の光を放つミラーボールがキラキラと4人を照らし出した。
「この手を伸ばしても誰も見つからない、そんなこの時間が『ねたましい』。」
一転、真っ赤なライトの中に座り込んだままの芥が張り裂けそうな歌声を響かせれば、楽器隊のグルーヴもさらに重厚感を増す。
“伸ばすこの手は誰のために”
か細い歌声が途絶え、暗いステージに青い光のミラーボールだけが浮かび上がる。
アコースティックギターをつま弾く芥が「誰のためじゃない、あなたのためにだよ。」と弾き語りで歌い出した『とある星空の下』。
バンドインした瞬間、星屑みたいな光がホールを包み込み、繊細に紡がれていく音色と歌声に心が震えた。
アウトロのピアノの余韻が残る中、白のアルペジオが物語を次の場面へと進めていく。
“揺れる”“震える”“繋ぐ”“聴こえる”
どんな時でも緞帳の向こうから途切れることなく届き続けたオーディエンスの声に導かれ、闇を抜け出し光の渦の中を勢いよく突き抜けていく『-yureru-』を経て、
「緞帳を開いて、その先に見えるのは、『群青』。」
張り詰めていた空気が一変し、目の前に広がった大きく真っ青な空へと勢いよく羽ばたいていくようにパッと世界が開けた。
「お待たせしました、声もらってもいいですか?」芥の問いかけに、オーディエンスからは“任せて!”と言わんばかりの大きな声が上がる。
それに後押しされた彼らの演奏と歌声からは、たとえ乱気流に飲み込まれても臆せず翼を広げて飛び続けていける力強さが感じられた。
『ダイアリー』から『群青』までの7曲では、楽曲が時を超えて交差しパズルのように組み上がりながら、感情の移り変わりを見事に描き出してみせた。
異なる時期に生まれた楽曲達が驚くほど美しくセットリストの中の“あるべき場所”に収まるのは、芥が描く詩世界に一貫した精神があるからこそ。
「Chantyの世界へようこそ。」その言葉通り、彼らの大きな武器である表現力と演奏力、そして多彩なアレンジと構成力で魅了したセクションだった。
「ありがとう!楽しんでくれていますか?11周年だね、早いね!人生で、いろんなお別れをしたと思うんだ。いろんなお別れをして、また新しく出会って・・・こうやって続けていたら再会することもあるじゃない?(中略)去年、10という大きな壁を越えさせてもらってここにたどり着けたのは、今目の前で一緒にぶつけあってくれているあなただけではなく、いろんな意思が僕達のことをここに連れてきてくれたんだなと思います。改めて、ありがとう。」
今日この日までに出会ったすべての人へと向けた感謝の言葉に、あたたかな拍手が送られる。
「今日もまた、既に忘れたくない日になっているし、忘れられない日にします。・・・『します』じゃないな。一緒に、しましょう。」
そう言ってギターをかき鳴らし躍動した『ゴーシュ』、フロアでは一斉にタオルが回りだす。
ある時期から、ここぞという場面でそれまで以上の威力を発揮する成長を見せた印象があるこの曲は、大切な日にも眩い輝きを放ってくれた。
「遠回りしてもいいなって思えるようになったのは、間違いなく俺達だけの力じゃない、あなたがいて、やっとそう思えるようになりました。だから、本当に『ありがとう』を伝えたい。」曲中、心の底からの想いを込めて伝えられた言葉。
常に最短距離を走る器用さは持ち合わせていなかったのかもしれないし、それ故にもどかしさを感じたこともあったのだろう。
でも、最短距離が最善とは限らない。彼らは一歩一歩、着実に進み続けた。
そして、遠回りしたからこそ出会えた人達、見られた景色、抱けた感情は、確実に糧となってバンドを支え11周年へと繋がった。
なにひとつ無駄な経験など無かったことを、Chantyはこの日また証明してみせたのだ。
「もうちょっと暴れていけますか?」とアッパーチューンな『いっせーの』で左右モッシュが起きたフロアの熱は上昇の一途を辿り、続く『不機嫌』では「好きに楽しんでくれよ、ワガママにいこう。」という言葉に応えて、声とヘドバンと拳でフロア全体が大きく揺れる。
クールダウンなんて言葉とは無縁の勢いを見せるオーディエンスを称えるように、「on drums、shota!on bass、野中拓!on guitar、白!on vocal、芥!そして一緒に作っている“あなた”!1人1人に感謝!」と、メンバーに加えて“あなた”をコールして拍手を送る。
逆光のライトが照らす中、イントロが流れると同時に一斉に手が掲げられた『アイシー』。
「もっとぶつけあおう!聞かせてくれ!」と求めれば、割れんばかりの声が返される。
「マジで美しいよ、ありがとう。」と口にした芥の見惚れるような表情が、その光景がいかに尊いものであるかを物語っていた。
グルーヴィーでキレのあるshotaのドラミング、アグレッシブ且つテクニカルな野中のベースプレイ、大胆さと繊細さを兼ね備えた白のギターワーク。そして、終始胸に迫る歌声を響かせる芥が「何度も何度も・・・諦められるはずねえだろ!だからさ、今日くらい期待させてくれよ!」と叫ぶと、会場のボルテージは最高潮へと達した。
「さあ、渋谷!ラスト行けますか?聞かせてくれるか?」
本編ラストにタイトルコールされたのは、『Emaj7』だった。
“交わし合った声に火花が散って 流れ星のように消え去っていく できればその景色を 一生描いていれたら 願い事五線譜に書き殴って”
柔らかなエモーショナルさを感じる楽曲に乗せてバンドにとっての一番の願いが歌い上げられ、ステージもフロアも満開の笑顔で本編を終えた。
すぐさま大きなアンコールが沸き起こり、ほどなくしてTシャツに着替えたメンバー達が拍手に迎えられて再登場。
「物販紹介の時間!」と身に着けたグッズをひとつひとつ紹介していく。白が野中と相談して形にしたTシャツは、バックプリントにこれまでの周年の全日程が入った可愛らしくも意味のあるデザインであることが明かされて感動に包まれた・・・かと思えば、紫のTシャツを選んで着用した理由を問われたshotaが「若いから!」と即答し白もそれに続いたため、記念日にも関わらずシニアチーム(芥・野中)とヤングチーム(白・shota)の溝が深まり爆笑を誘う場面も。4人の和やかな空気が微笑ましい。
そして、ニューシングル『想巡 / 空々』をデジタルリリースすること、11月~12月にかけて福岡・北海道・名古屋・大阪・ツアーファイナルとなる2025年1月9日・Veats Shibuyaまで全国5ヶ所7公演を巡るワンマンツアー『冬空、想いは巡る、空々と。』が開催されることが発表されると、場内は喜びの歓声と拍手に包まれた。
「“(MCで)これを言おう、あれを言おう”って、家に居る時とかに考えるんだけど、そんなことはどうでもいいって思えるくらい夢中になっています。頭の中にあるものなんて目の前のものには敵わないなって思いながら、2024年9月16日を一緒に過ごさせてもらっています。さっきも言ったけれど、11年、4015日。僕らは、散らない花を咲かせるためにここに参りました。まだ僕らがここに居るってことを知ってほしいし、あなたの居場所も教えてほしいから、アンコール、もう少しだけお付き合いください。・・・on drums、shota!」
shotaが再び導火線に火をつけるべくショートドラムソロを挟み、「渋谷、もうちょっとやれるか?聞かせてくれるか?居場所を教えてくれるか?」と『透明人間』で始まったアンコール。ライヴ感あふれる楽曲に乗せて自分はここに居ると伝えようとアクセル全開で声を上げるオーディエンスに、メンバーの演奏もさらに熱を帯びていく。
「居場所を教えて?」そう繰り返す芥が「『ミツケタ』!」と叫べば、メロディアスさの中に一癖あるサウンドに合わせてフロアはジャンプしながら左右に揺れる。
間髪入れずにふわふわとした不安感のある歌い出しから次第に芯のある切なさが印象的なサビへと展開する『ソラヨミ』、フロント3人がステージ際に躍り出て演奏すれば、一面にひらひらと手扇子が舞った。
何度も「もう一度、居場所を教えてください!」と呼びかけ、この場所に居る全員の存在を心に焼き付けていくメンバー達。
「最後に最愛の気持ちを込めて、この曲を贈ります。」そう言って『スライドショー』の演奏が始まると、身体の内側の温度がぐっと上がっていくような感覚を覚えた。メンバーとオーディエンスが、お互いの想いを受け止め合うことに集中しているのが伝わってくる。
「不安だったんだよ!確信に変えに来たんだよ、ここに!」歌い出して間もなく心の内を素直に吐露するようにそう叫んだ芥は、エンディング間際に「“叶うはずのない未来”を変えにきました。」と力強く言い切った。
かつて“叶うはず無かったんだ”“未来はいつも残酷”と歌われていた“未来”が、4人の揺らがぬ信念と強い絆、そして彼らを支えるファンの存在によって希望の言葉へと塗り替えられた、これまでで一番胸を打つ『スライドショー』だった。
エンディングBGMに負けないくらいの大歓声と拍手が包み込む。
「改めて、ありがとうございます。非常に夢中になった!終わりたくないですね、正直。ライヴは、いつもそう思うんだけど。やっぱり、帰りたくなくなるからライヴなんだろうなって思いました。(中略)だから、それぞれの日常を生きて、またこの当たり前じゃない尊い時間を一緒に過ごしましょう。ありがとう、11周年。どんどん先に進んでいきたいと思います、よろしくお願いします!」
一列に並んだ4人は「Chanty!渋谷で!11周年!」の掛け声でジャンプして深々と頭を下げ、「次は12周年、よろしくお願いします。また会いましょう、Chantyでした!ありがとうございました!」とステージに最後まで残った野中がリーダーらしく締めてアンコールを終えた。
・・・と、ここまででも充分すぎるほどに素晴らしい周年公演だった。
それでも、鳴り止まないアンコールの声。その声に押されステージに戻ったメンバー達は、ハイテンションなオーディエンスに驚きながらも嬉しそうな笑顔を見せる。
「愛しいですね、本当に。」慈しむような表情の芥。
「まわりくどいことばかり言ってきたけれど・・・素直なことを言えなくて、“悟ってくれ、汲み取ってくれ”ってスタンスが多かったかなと思います。だけど、今から歌う曲で素直な気持ちを贈るので。ラスト、ぶつけ合いましょう。『フライト』!」
予定には無かった正真正銘のWアンコールに選ばれたのは、『フライト』だった。
「生きる意味さえなくしかけた時・・・ずっとそばにいてくれてありがとう。」何度となく口をついて出るのは、心からの感謝の言葉。
左右のバスドラに腰かけて楽しげに演奏する白と野中、その様子にむむっとした表情を見せつつ微笑むshota。
「shota、野中拓、白、俺、そしてshia.、成人、千歳、“あなた”で、この場所に立ってます。どうもありがとうございました!」
歴代メンバーの名前と“あなた”も加えてコールすると、Chantyが奏でる音が、歌が、それに全力で応えるオーディエンスの声が、ひとつの塊となってWWWの高い天井を突き破らんばかりに放たれていった。
「Chantyでした!今日はありがとうございました!」
ステージの端から端まで移動して共に素晴らしい1日を作り上げてくれたオーディエンスに拍手を送り、4人は再び一列に並んで手を繋ぐ。
フロアもみんな手を繋いでたくさんの“W”が掲げられると、「せーの!」でジャンプをして11周年の“停止線”を飛び越え、12年目への第一歩を踏み出した。
「あなたが足を運びたいと思った日が何よりも特別」
以前、芥はXにそう書き記していた。そんな“特別”を繰り返してたどり着いた記念日は毎年、出会えた奇跡を特に強く感じられる日なのではないかと思う。
何度となくバンドを奮い立たせてくれた、オーディエンスの声、振り上げた拳、ステージを見つめるキラキラとした瞳。
惜しみなく贈られる愛情を再確認した4人は、また大切な“あなた”に会える日まで、当たり前じゃない毎日を積み重ねていくのだろう。
Chantyは、これからも“散らない花”を咲かせながら未来を描き続けていく。
文:富岡 美都(Squeeze Spirits)
Photo: 張 尹澈